SENSAIまさの備忘録

繊細気質まさの過去を振り返る

これまでのこと1 京子 (小学校)

 私は,砂利道を急いで歩いている。いい天気だ。小学4年生も終わりに近い,3月の半ば頃である。私は,田舎ではあるが,県庁所在地の旧市街に住んでいた。5mほどの道幅の両側に,びっしりと家が軒を連ねている。八百屋,魚屋,肉屋,酒屋などが集まった一角を通り過ぎる。何kmかごとに,このような商店の集合体があった。冷蔵庫が家庭では珍しかった時代である。近所の家々で,主婦が歩いてその日の夕飯の生鮮食料品の買い物をするのだ。 早朝,納豆売りが自転車で廻って歩く時代である.

 

 私は,朝7時半には家を出た。始業前の小学校のグランドで,三角ベースの野球を楽しむためだ。同級生数人が,三々五々集まってくる.雪はそれほど降らなかったが,根雪になると野球はできない。グランドは,雪に覆われるか,水浸しのままだった。やっと,ここ数日,野球のできる状態になったのだ。同級生と遊ぶのは,わくわくした。しかし,特に活躍するわけではない。じゃんけんで,チーム分けすると,ガキ大将か強い子の言うとおりに,打順と守備のポジションを決められた。それでも,みんなと一緒に運動するのは楽しかった。

 

 私は,気の弱い子供だった。人が苦手だった。大人や強い子に,自分からものが言えなかった。大人が特に怖かった。そのせいで,挨拶もまともにできず,友人の家に遊びに行くことはめったになかった。また,年1度の行事があったり,集合時間を設定されたりすると悪いことが起きないか,遅刻しないかとあれこれ心配した。そうかというと,生意気で,お調子者で,他人を思いやることがない,鼻持ちならない性格も併せ持っていた。そんなことだから,大人には好かれなかった。女子も苦手だった。自分から話しかけることはほとんどなかった。

 

 今年の冬は,楽しいことがあった。きっかけは忘れたが,放課後,クラスの男女が分かれて雪合戦をしたのである。最初は,当たり障りのないように,適当に投げ,適当に逃げていた。それが,ある時から,一人の女の子と一騎打ちになったのである。京子という名の,明るい,活発な子だった。当時私は,活発な目立つ女の子が好きだった。自分にないものを求めたのかもしれない。敵同士ながら,私と京子は意気投合した。雪合戦は夕方まで続いた。その日から,京子が好きになった。もちろん表立ってそんなそぶりは見せなかったが。京子も何かと私に話しかけてくるようになった。私は,うれしかった。

 

 3月の始め,京子を真ん中において,女子の集団が大声でわめいていた。「えーっ,どうして?」,「そんな」。私は聞き耳を立てた。わいわい騒いでいる中に,転校という言葉が聞こえた。私は驚いた。集団に目をやった。「いつ引っ越すの?」「3月?」「はやーい」京子が引っ越すらしい。転校か?その時,京子が私の方を見た。目と目が合った。私は,慌てて目をそらした。転校…。せっかく仲良くなったばかりだったのに。残念だ。

 

 こつんと小石を蹴った。小石は,側溝に落ちて行った。側溝は,大きな石を積み重ねてできている。今日は家を出るのが少し遅かった.みんな,もう来ているかなと心配になり,少し早足になった.ふと前を見ると,女の子とその母親らしき女性が道の反対側を,手をつないで歩いてくる。私はすぐに分かった。京子だ。引っ越し荷物を送った後,別途電車で新居に行くに違いない.母親とよそゆきの服を着て歩いている。「えっ」私の心がキューっと緊張した。まずい,まずい,まずい。この状況は,最悪だ。先方もすぐ私に気づいたようだ。「あ,○○君だ。」という声が聞こえた。女の子でしかも親付き,私の一番苦手な状況だ。私の上半身は身動きが取れない。下を向いたまま,足だけが前へ前へと進んでいく。すれ違うところまできた。ますます私の体は固くなる。「気づかないふりしているよ,○○君。」明るい声が聞こえた。はりつけにされたような時間が過ぎていく。「さよなら」という京子の声が聞こえた。私は,京子の顔を見ることはなかった。

 

 すれちがってしばらくして,思考力が徐々に戻ってきた。その時,私は甘酸っぱい気持ちなど毛頭なく,とにかく,ただただ,ほっとしたのだった。 それ以来,京子とは一度も会っていない。

 

      (これは,事実をもとにしたフィクションです.登場人物は仮名です.)

はじめに

 私は,60を超えた爺だが,あと少し定年まで間がある。

 

 幼少のころから,何か生きにくいと感じてきた。学生の頃は,緊張しやすいという程度の認識だった。生きにくさを強く意識するようになったのは,勤め始めてからである。中年になって仕事のストレスが強くなってきた頃,自分の生来持っているものに,生きにくさの成因があるのではないかと思い始めた。

 

  その辺はおいおいお話しするとして,この度,ブログでお世話になることになった。仕事柄,理路整然とした文書ばかり書いてきたので,真っ白なワープロ画面を見て,困惑している。何から書き出してよいやら。自由に書くというのは,難しい。

 

  できれば皆さんの役に立つ記事を書きたいと願っているが,すぐには筆が進まない。そこでしばらくは,私の記憶に鮮明に残っていることを赤裸々にお話ししようと思う。よろしければお付き合い頂きたい。